「あはれ」という言葉
「あはれ」は「しみじみとした趣、寂しさ、悲しさ、愛情、情け」というようなとても感動的であるさまを表す語です。
現代語でいうところの「あわれ」は「かわいそう」の意味ですが、古文の「あはれ」にも、かわいそうの意味がありますが、しみじみとした趣という意味がほとんどです。
「をかし」も趣があるという訳なので似ていますが、「あはれ」の「しみじみとした趣」というのは、もっと深く、心に響くような、心に残るような、強い感情をあらわしています。
素晴らしいと思う、感動する、かわいそうに思う、悲しい、恋をする、美しい など、これらは全部「あはれ」の訳です。あはれは、文脈に合わせて訳すことができる単語です。
また、「あはれ」の文学で代表的な作品は紫式部の恋愛小説「源氏物語」です。恋愛ということですので、心が強く動く表現として「あはれ」という言葉を多用するのも納得できます。
『あはれ』の意味一覧
- しみじみとした思いだ。
- 趣深く感じる。
- 悲しい
- しみじみと心打たれる。
- すばらしい。
- 恋しい、いとしい
- どうしようもなく悲しい。
- 身につまされて悲しい。
- もの寂しく、心引かれる。
- かわいそうだ。気の毒だ。
- しみじみとかわいい。
- いとしい。
- 尊く、ありがたい。
「あはれ」を使った歌の原文/訳
「しみじみとした趣」を使った表現
『徒然草』
もののあはれは秋こそまされと人ごとに言ふめれど、それもさるものにて、いまひときは心も浮き立つものは、春の気色にこそあめれ」
【現代語訳】
しみじみとした趣は秋がすぐれているとだれもが言うようだけれど、それももっともなこととして、さらにいちだんと心がうきうきするものは、春の景色であるようだ。
しみじみとした思いを使った表現
『枕草子』
蜘蛛(くも)の巣のこぼれ残りたるに、雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ【現代語訳】
蜘蛛の巣が壊れずに残っているところに、雨が降りかかったのが、白い玉を(糸で)貫いたようであるのは、なんともしみじみとした思いで興味深い。
「しみじみと心打たれる。すばらしい。」を使った表現
『徒然草』
かくてもあられけるよとあはれに見るほどに【現代語訳】
このような(寂しい)ありさまでも住んでいられたのだなあとしみじみと心打たれて見ているうちに。
どうしようもなく悲しい。身につまされて悲しい。を使った表現
『源氏物語 若紫』
いとはかなうものし給(たま)ふこそ、あはれにうしろめたけれ
【現代語訳】
とても幼くていらっしゃるのが、どうしようもなく悲しく気がかりだ。
もの寂しく、心引かれる。を使った表現
『徒然草』
あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣(かや)り火ふすぶるもあはれなり【現代語訳】
粗末な家(の塀)に夕顔の花が白く見えて、そして蚊遣り火がくすぶっているのももの寂しく心引かれる。
『かわいそうだ。気の毒だ。』を使った表現
『枕草子』
得たるはいとよし、得ずなりぬるこそいとあはれなれ【現代語訳】
(思いどおり官職を)得たのは大変よいが、(官職を)得ないでしまったのは、ひどく気の毒である。
『しみじみとかわいい。いとしい。』を使った表現
『更級日記 大納言殿の姫君』
例の猫にはあらず、聞き知り顔にあはれなり【現代語訳】
普通の猫のようではなく、(人の言うことを)聞き分けるようでしみじみとかわいい。
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